新雪の中を泳ぐ。

2025/05/31

ほんよみ

今日は朝から結構な雨降りで、もともと引きこもりの私が外出なんて論外なのだけれど、借りた本の返却期限が運悪く今日までで、仕方なしに傘に長くつの装備で図書館に行った。
もっと早く読了しておけば、わざわざこんな雨の日に出かけずに済んだものを、結局いつも、何事も、ぎりぎりの女なのである。

『孤高の人』(新田次郎著)はそれはそれは長く暗い話だったけれど、先日も書いた通り、ラストの詳細を知りたかった一心で、めでたく読了できた。主人公・加藤文太郎が実在する人物だったこと、登山の世界では超有名人で記念館まであるということを読み終わってから知った。”文太郎”にフリガナが見あたらず、”ぶんたろう”?”ふみたろう”?と迷ったが、この人の人物描写から”ぶんたろう”の方がピタリとくる!と勝手にそれで読み進めていたけれど大正解だったのが地味にうれしい。

しかし、今回のような読書体験は今まであまり記憶にない。大概、つまらなければ途中で放り出してしまうから。黙々と山歩きをする男の話だよ?しかも、まったく面白みのない不器用で頑固な男の。それが、分厚い単行本に、1ページが2段に分かれて細かい字がズラーっと並ぶ状況を想像してほしい。読んでも読んでも先へ進まない。まるで、腰まで降り積もった新雪の中を泳ぐ、食料の尽きた加藤文太郎の気持ちだわ、と変なところで共感する。(文庫本なら上下巻に分かれているので、もうすこし進捗感が感じられたかもしれないが、私の読んだのは図書館本、それこそ、『新田次郎全集』と名の付いた単行本だった。)だからかどうかわからないが、読了した時には山頂まで登り切った感があってよかった。

この物語には、山の気象のこともとても詳しく語られていてすごいなあって思っていたら、作者は気象台に勤めていたこともある人だったのね。山の頂で天空の星に包まれるシーンは、この物語の中で唯一私のお気に入りだ。私もそんなところに身を置いてみたいと憧れるけれど、やっぱり山登りは無理だなー。残念だけど。