そのクラスメイトの男の子が私に、パッヘルベルのカノンをカセットテープに入れて聴かせてくれたのだった。16歳の男子が女子に贈る曲がクラッシックとは、なかなか渋い。
子供の頃から音楽鑑賞の授業は好きだったけれど、その男子と、そんな話をしたんだったかどうかは覚えていない。でも、「いい曲だから聴いてみて」と言って渡されたのが、カノンとの出会いだった。
帰る方向が一緒だったので、自転車通学だったその男の子は、徒歩通学の私に合わせて自転車を引いて、よく一緒に帰った。
今では、CMやら何やらあちらこちらで聴かれるカノンだけれど、当時は今ほど有名ではなかったように思う。初めて聴いたその曲を、とてもいい曲だなあと思った。
その男の子は、本もときどき貸してくれた。新聞の折り込み広告の白い方を表にしたカバーがかかっていた。
帰る方向が一緒だったので、自転車通学だったその男の子は、徒歩通学の私に合わせて自転車を引いて、よく一緒に帰った。
つきあっているわけではなかったが、たちまちクラスでうわさになった。
3学期になって、学級委員を決めるとき、1、2学期中ずっと学級委員だったその男の子が立候補した。女子の方は誰もなり手がいなかったので先生が、「じゃあ、指名して」とその男の子に言った。クラスのみんながニヤニヤし出したとき、「sobakoさんお願いします」と私を指名した。
迷惑だった。
なんで、私?
みんな、ニヤニヤしてるし。
最悪!
さっき、テレビでカノンが流れて来て、ふっと遠い遠い昔の出来事を思い出したのだった。卒業以来一度も会ったことがないけれど、何かのきっかけで、鮮明に思い出すことがある。
彼は元気にしているのだろうか、なあ。


